輸血製剤の投与速度に関して

血液・凝固・輸血

先生、赤血球輸血は2単位を何時間で投与しますか?

輸血製剤の投与速度に関して「何となく”2単位2時間で”って指示してるけど調べたことないな」という方も多いのではないでしょうか?基本的な事項ですでによく知っている方も多いかと思いますが、今回改めて血液製剤の投与速度に関しておさらいします。
一般的な投与速度
まずは「日本赤十字社 輸血用血液製剤取り扱いマニュアル」を参考に、通常時の輸血の投与速度に関して紹介します。
(日本赤十字社 輸血用血液製剤取り扱いマニュアルより)
赤血球製剤(RBC)、血漿製剤(FFP)、血小板製剤(PC)いずれも推奨は同じです。一般的な投与速度は「1ml/分から始めて5ml/分まで」の間で投与します。1単位140mLなので1単位あたり30分〜60分で投与します。1単位あたり数時間かけると細菌増殖のリスクがあるので避けるようにしましょう。
大量出血時
外傷患者などで出会うことの多い大量出血の患者への輸血。もちろん急速投与です。赤血球製剤などは目標とするHbを目掛けて投与しますが、”24時間で循環血漿量以上の大量出血または100mL/分を超える時には新線凍結血漿や血小板濃厚液の投与も検討する”と大量出血時のガイドラインに記載されまています。有名な「血漿:赤血球:血小板=1:1:1」の輸血比率のススメですね。100mL/分というと赤血球製剤は140mL/1単位なので、だいたい3分で2単位を投与するペースです。
(※.すごい量に思うかもしれませんが、ちなみに急速大量輸血に対する裁判所の過去の判例で「血圧測定不能時の輸血速度は30分に2000ml投与する基準」があり、それ以下の輸血速度で患者を死なせたのは”一般的な臨床水準を下回る医療行為である”、、、との判決が下った判例があったようです。恐ろしや・・)
さて、この大量出血時の輸血で重要になってくるのは”止血能”を考慮して輸血することと言われています。
(Hippala ST et al. Anesth Analog 81:360,1995より)
この中でも特に大量出血時の止血で重要になってくるのがフィブリノーゲンと言われています(他の凝固因子に比べて止血不能レベルに達するのが早い)。先ほど紹介した「1:1:1」の輸血比率も”いかに血漿投与を迅速に行うか”の意識づけでもありましたね。フィブリノーゲン>150mg/dLをいかに早く達成させるかが重要になってきます。
上昇予測の概算は上図の通り計算できますが、あくまで出血していない場合の理論上の話です。実際の患者では持続して出血もしており、その上昇はかなり乏しくなると予想されます。
大量輸血に伴う有害事象
上述の通り大量出血に際し目標に達するまで急速投与で輸血製剤を投与していきます。もちろん大量輸血には副作用・有害事象が伴います。代表的なものとして
  • 代謝性変化(代謝性アシドーシス、クエン酸中毒、高カリウム血症など)
  • 希釈性凝固障害(凝固因子・血小板の低下)
  • 輸血関連循環過負荷(TACO:transfusion-associated circulatory overload)
  • その他(溶血、アナフィラキシー、TRALI、細菌感染、GVHDなど)

(危機的出血への対応ガイドラインより)

特にTACOに関してはTRALIと比べて共通のコンセンサスの得られた診断基準があるわけではなく、見過ごされてしまう可能性がある病態です。下記に本邦の厚生労働省の研究班による診断アルゴリズムやリスク因子の図を載せています。やはり心機能低下患者は高リスクであり、心機能低下患者への輸血は特に気をつけたいですね。
(日本輸血細胞治療学会誌「TRALI,TACO 鑑別診断のためのガイドライン」より。一部改変)
【今回参考にした文献】

1. 日本赤十字社「輸血用血液製剤 取り扱いマニュアル」

2. Hiippala ST, Myllyl GJ, Vahtera EM. Hemostatic factors and replacement of major blood loss with plasma-poor red cell concentrates. Anesth Analg. Aug 1995;81(2):360-5.

3. 田崎 哲典,他. TRALI, TACO 鑑別のためのガイドライン. Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy, Vol. 61. No. 4 61(4):474-479, 2015

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