敗血症性ショックはHypovolemiaなのか? “血管内hypo”という魔法のコトバ

循環管理

「先生、敗血症でhypoなので輸液を行いますね。」

以前敗血症における輸液戦略(「敗血症性ショックにおける輸液管理〜4つのPhaeを意識して〜」)を紹介しましたが、そもそも敗血症における体液量はどのような評価になるでしょうか?今回は少し古いですが(2014年)Hypovolemiaに関する論文をもとに、敗血症における体液の評価や、どうして輸液が必要か?、どうして利尿を行うのか?、といったことを紹介します。

「敗血症は脱水ではない」

“敗血症性ショック=血液分布異常性ショック”であり、循環血液量減少性ショックではありません。いわゆる循環血液量減少性ショックは、嘔吐/下痢や出血などを代表的な病態とした“総体液量”が減少した状態です。この“総体液量”がポイントです。
“Stressed volume”と“UnStressed volume”
(Intensive Care Med(2014)40:613-615より。筆者にて加筆)
上図のように、静脈系の血液はStressed volume=血管の中に存在して心臓に還流され循環に直接寄与する血液量と、UnStressed volume=血管外に存在し循環にはまわらずプールされている血液量(昔で言う“サード スペース”なるものですね)に分類されます。
出血などの循環血液量減少性ショックの場合は、総体液量が減少します。体液の喪失に対してUnStressed volumeから減少しStressed volumeを保つことで循環を維持(=「代償」)しようとします(図の右上)。ただある一定量が失われると代償できなくなり=Stressed volumeも減ってしまうので、血圧の低下が見られ始めます(図の左下)。では敗血症はどうでしょうか?
敗血症性ショックは“相対的”血流量の低下
敗血症では出血などしていませんので、総体液量は変化していません。ただ図の右下のように“桶(タンク)”が大きくなることで、Stressed volume→UnStressed volumeへと血液量が移動し、Stressed volumeが減少して循環障害を起こしてしまいます。Stressed volume→UnStressed volumeへと血液の分布が移動してしまう異常なので、“血液分布異常性ショック”という名前に分類されるんですね。Stressed volumeは静脈血管内に存在する血液量のことなので、よく“血管内hypo”と言ったwordが使われるのはこのためですね。
①敗血症性ショックで輸液する理由(蘇生期:Resuscitation)
では総体液量が減ってないのに、どうして敗血症性ショックでは輸液をするのでしょうか?それは輸液で総体液量を増やし、結果的にStressed volumeを増やすことで何とか循環の維持を図るためです。ひとまず循環が回らないことには蘇生できないので、無理矢理体液量をカサ増しして桶(タンク)内の血液量を増やしています。ただそもそもの原因は桶(タンク)が大きくなってしまったこと(医学的には「血管抵抗が低下してしまった」)が原因ですので、カテコラミン(敗血症での First choiceはノルアドレナリン)を使用して、少しでも桶を小さくすることが病態に合っています。ですので、最近では特に敗血症における輸液量を制限する話や、カテコラミンの開始は早い方がよい、といった報告が多く見られますね。
②敗血症性ショックで利尿する理由(排泄期:Evacuation)

ショックを離脱すれば次は除水を行います。先ほど見た通り敗血症はそもそも総体液量は減少していないですが、桶の水をカサ増しするために(蘇生のために)輸液しました。ショックを離脱した、というのはサイトカインストームなどで末梢の血管抵抗が低下した状態が元に戻った=桶の大きさが元に戻ったことを意味します。そうすると、もともとの桶の大きさに対して蘇生で投与した分だけ体液量が増えているので、水分がダブついている状態です。これは四肢の浮腫や、肺水腫や胸水などとなって認められます。そこで、ショックを離脱した際には、それまでの経過で増えた総体液量を減ずる対応が必要になるんですね。


循環血液量減少や血液分布異常などは頭ではよくわかっていても、このように図で示してくれると非常にわかりやすくていいですね。ぜひ静脈系における血液量の状態を意識しながら輸液管理などが行えるといいですね。
【参考文献】

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