人工呼吸器の管理、勉強などをしていると必ず登場する「SBT(Spontaneous Breathing Trial):自発呼吸トライアル」。まだ人工呼吸器の患者の管理を始めて日が浅いうちは、「あれ?気づけば自発呼吸モードになってる?」「あれ?気づけば抜管されている?」という経験をしたことある方もいるかもしれません。本日はSBTに関して、その位置付けや方法などを紹介しようと思います。
SBTのタイミング:「患者が良くなってきた!」
上図は人工呼吸患者における大まかなSBTの位置付けです。イメージは「挿管したばかりの急性期は強制modeでしっかり管理」→「患者の状態が改善し、いよいよ抜管に向けて自発modeに変更しよう」といった形です。(もちろん非同調の問題などで急性期に自発modeで管理することも十分あり得ます)
では、SBTの開始に値する”状態の改善”とはどのようなものでしょうか?
SBT開始の条件:「原疾患の改善、循環が安定している!」
SBT開始の条件に関しては、色々な文献や書物があり記載の仕方に違いはあると思いますが、その内容は概ね違いはありません。ここでは非常に有名な3学会合同人工呼吸器離脱ワーキングによるプロトコルを取りあげています(※3学会:日本集中治療学会/日本呼吸療法学会/日本クリティカルケア看護学会)。筆者は研修医の先生や看護師に説明する際には、上の図の右側のように説明しています。内容は同じですがイメージしやすいよう段階順にまとめた形です。今回はそれを少し紹介します。
①原疾患の改善:挿管した理由の病態が改善傾向になければそもそも抜管どころの話ではないので、まずこれが第1条件です。発熱の制御などもここに入ります。
②循環の安定:循環管理は呼吸に優先される、呼吸は循環が安定してから、がモットーです。循環が安定しているとはカテコラミンの使用がごく少量に減量できている、頻脈がない、コントロールできていない不整脈がない、虚血の所見がない、といったものです。これはSBTに限らず一般的に「循環が安定している」状態を表すものです。
③酸素化が十分である:循環がクリアして始めて呼吸の話です。まずは酸素化に関して。さすがにPEEP≦8cmH20、FiO2≦0.5の改善は得られてからにしようね、という話です。
④十分な自発呼吸がある:SBT開始条件に酸素化(PEEP/FiO2)の規定はありますが、PCVモードなどで調整する「吸気圧」の条件はありません(VCVでの管理もあるので当然と言えば当然ですが)。プロトコルでは1回換気量5ml/kgと説明したりもしています。とにかく「しっかり自発呼吸がでている」「あきらかな異常な呼吸をしていない」は最低でも満たしていることを確認しよう、と話をしています。
SBTの方法:「無難な方法はPS:5cmH2O / PEEP:5cmH2O」
ではSBTを行う際はどのようにするのでしょうか?大まかには①人工呼吸器は装着したまま自発モードで調整②T-pieceを使用し人工呼吸器を外す方法があります。現時点でどちらが優れているか、といった明確な差は出ていません。筆者の個人的な経験では、その簡便さからSBTは呼吸器装着のまま自発モードに変更して設定を調整して行う施設が多いのではないでしょうか?
ではその際に設定はどうしたらよいか?上の図はCritical Care 2020におけるシステマティックレビューの表からの拝借です。T-pieceとの比較における自発モードでの設定内容ですが、それぞれstudyで違いはあるものの、概ね「PS:5cmH2O / PEEP:5cmH2O」の設定が無難そうですね(筆者もその設定を用います)。時間は30分〜120分継続し評価します。
SBTの評価・考え方:「『SBT成功=抜管可能』ではない!」
上の図は先述の3学会合同プロトコルで紹介されているSBTの成功基準です。成功できなかった場合(SBTに耐えられなかった場合)は、SBTの前の設定に戻し原因を考えその除去にあたります。そしてまた翌日以降もSBTを繰り返していきます。
ここで大切なことは。「SBT成功=抜管可能」ではない、ということです。SBT成功はあくまでも「人工呼吸器からの離脱が可能」を意味するのであって、「抜管が可能」=「気道や意識、喀痰排泄など気道閉塞のリスクがない」ことを評価することが必要です。SBTが成功しても、こちらの問題で抜管ができずに気管切開、、、というケースは非常に多くあります。注意するようにしましょう。
SBTに関してはその方法など今後もまだまだ新しい報告もでてくると思いますので、ぜひともチェックしてみましょう。
【参考文献】
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