腹部コンパートメント症候群の管理:減量!減圧!除水!でもMAPとPEEPは高めにね。

消化管・肝胆膵

「膀胱内圧が高い患者って、何をすればいいんですか?」

我々の施設でも年に数例ほどですが外科的開腹減圧術を検討する腹部コンパートメントの症例が入室されます。
見出しの質問のように膀胱内圧は皆さん測定してくれますが、その後の管理をどうしたら質問を受けることが多いので、今回は腹部コンパートメント症候群の管理について紹介したいと思います。。

減量・減圧・除水! コンセプトは「とにかく腹にかかる圧を取り除く」

(Ann. Intensive Care (2019) 9:52より。筆者訳)
多くの識者の方々も紹介されている(であろう)診療アルゴリズムです。非常に見やすく分かりやすくまとまっています。
そもそもの前提ですが、腹腔内圧を直接測定するのは困難なので膀胱内圧の測定で代用します。また定義として
  • 腹腔内圧(IAP)の正常値:5〜7mmHg
  • IAP>12mmHg:intra abdominal hypertention(IAH)→介入開始基準
  • IAP>20mmHgかつ臓器障害の出現:Abdominal Compartment Syndrome(ACS)いわゆる”腹部コンパートメント症候群”
となります。上のアルゴリズムでも、IAP>12mmHgで治療介入を開始し、なんとかIAPは15mmHg以下になるように管理しよう、とされています。
そして具体的な管理方法ですが、アルゴリズムにもある通り5つの各項目にそれぞれ対応するように推奨しています。(アルゴリスムは、さらに介入の程度を病態の進行に応じてSTEP毎に表にしてくれていますね)
①腸管内容物の排泄
まずは腸管内の貯留物の減量です。空気、水、固形すべてのもの減量・除去を行います。NGチューブから始まり浣腸やイレウス管、最後は大腸内視鏡まで検討します。経腸栄養は最小限にして可能な限り継続する、というスタンスが感じられますね。
②腹腔内の占拠性病変の除去
次に腸管の外、腹腔内の減量です。腹水などの減量は穿刺排液も可能ですが、特に血腫除去は穿刺では対応できず外科的介入を要します。
③腹壁のコンプライアンスの低下
また目に見えるモノだけでなく、腹に強い圧力がかかって腹腔内圧が上昇するのを防ぎます。まずは鎮痛・鎮静管理。そして体位の調整や、最終的には筋弛緩薬の投与も行います。
④輸液量の適正化
今度は、必要以上にvolumeは入れない、可能なら除水を検討することになります。特にIAH/ACS患者では腎機能が増悪し、利尿薬では管理困難な症例も多いです。最終的には透析による持続的な除水が必要になります。
⑤全身および局所灌流の適正化
きちんと目標を決めて輸液を行い、あた循環動態のモニタリングもきちんと行う必要があります。
以上の管理を施しても、IAP>20mmHgから改善せず、臓器障害を伴う場合には、外科的開腹減圧術の検討になります。この判断は遅れないようにしないといけません。

MAPとPEEPは普段よりも高めを意識!

上の式のように、腹部の灌流圧は平均動脈圧と腹腔内圧で決まります。腹腔内圧が上昇した状況でも腹部灌流圧を60mmHg以上に維持するためには、平均動脈圧を高く保つ必要があります(MAP>70〜75mmHgが目安)
(Ann. Intensive Care (2019) 9:52より。筆者加筆)
腹腔内圧の増加は胸腔内圧の増加や胸壁・肺コンプライアンスの減少、無気肺の増加や機能的残機量の減少など呼吸器系にも様々な影響をもたらします。無気肺の増加などで肺の容積も3.2→2.4Lに減少したとする報告もあります。
顕著な努力呼吸は避け低容量換気を心掛け、PEEPは高めで管理するのが腹部コンパートメント症候群での呼吸器管理のストラテジーとなります。
病態生理を考えながら対応を検討する必要がある非常に勉強になる疾患ですね。
【今回参考にした文献】

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