発熱に関する10のこと

体温管理
ICUだけでなく一般病棟の入院患者でも、発熱への対応は避けることができません。発熱に関する全てを網羅しているわけではありませんが、重症患者における発熱に関する”10のTips”を取り上げた論文を紹介します。
①正確な体温測定を心がけましょう
そもそも論ですが重要ですね。みなさんもご存知の通り体温は内臓の温度が最も正確で外表である皮膚が最も不正確です。本論文でも「肺動脈カテーテルでの測定が最も望ましいですが、さすがに実用は難しいので肺動脈カテと差の少ない膀胱や食道、直腸での測定がよいよね」と紹介し、可能な限り膀胱での測定を奨めています。参考までに、下記に集中治療専門医テキストで紹介されている体温測定に関する方法を紹介します。
(集中治療専門医テキストで紹介されている内容を参考に作成)
②発熱の定義は患者によって違うことを意識しましょう
同じ患者でも0.5〜1.0℃は生理的変動があり、ガイドラインでは38.3℃以上を発熱と定義していても、免疫不全の患者ではより低い閾値を用いる、といった疾患により介入の閾値なども変わってきます。また透析など腎代替療法を施行していたりケタミンなどを使用している場合は体温上昇がマスクされるので注意が必要です。
③必要であれば熱源検索のため検査の実施を(でも無駄な検査は控えてね)
感染源の特定のために、血液検査や画像検査を検討しましょう。特に抗菌薬の使用を検討する症例では必要です。ただ全ての患者に検査すれば良い、というわけでもなく有用性が低い検査(例えば検査しても方針が変わらない、など)は減らす努力も大切です。(本文では術後早期の発熱患者で検査が有用であったのは9%に過ぎなかった、とも報告されています)
④非常に高熱の場合は非感染性の原因を考えるようにしましょう
感染による発熱の場合、38.9℃を超えることは稀であるとされ、非常に高い熱が認められる場合は、必ず非感染性の要因を考えるようにしましょう。セロトニン症候群や悪性高熱症、甲状腺機能亢進や薬剤性などがそれにあたります。
⑤悪性高熱症は積極的に治療するようにしましょう
麻酔科の先生でないと中々遭遇しないかもしれませんが、悪性高熱症も重要です。麻酔での薬剤を契機に筋強直や不整脈、高二酸化炭素血症などが認められた場合には、悪性高熱症を疑いダントロレンの使用などを検討するようにしましょう。
⑥敗血症の患者では発熱の管理に注意しましょう
非常に高い熱は代謝需要の増加などで敗血症の死亡率と関連があり、動物実験では体温を下げることを敗血症の転機改善が言われていますが、ヒトを対象とした敗血症では32〜34℃では臓器不全が増加すると言われています。とにかく極端な管理はよくない、とうことですね。敗血症のおける発熱の管理は、まだ明確な方法はでていません。
⑦敗血症患者の発熱に対してアセトアミノフェンの使用や冷却は予後を良くするものではありません
みなさんもよく聞く”敗血症にアセトアミノフェン”問題ですね。アセトアミノフェン投与して血圧低下しちゃいました、です。体温も低下しますがそれ以上に血圧低下と頻脈が認められ、確かに患者の不快感は改善するかもしれませんが死亡率を改善させる効果はなく、循環動態を悪化させる可能性があります。これは体表の冷却においても、体温を下げることには有用だが転機の改善は得られない、とされています。
だからといって別にアセトアミノフェンは使用するな、ということではありません。そのようなリスクを認識した上で使用を検討することが重要です。筆者も研修医の先生には「ただ体温を下げるためだけであれば不要ですが、リスクが許容される範囲で解熱の必要がある場合は投与を検討してみよう」と話をすることがあります。
⑧敗血症で発熱を認めないのは良い兆候ではありません
またまた敗血症関連です。敗血症で発熱を認めない場合は免疫反応の不良を反映している可能性があり、注意が必要とされています。原因にかかわらず低体温性の敗血症の死亡率は発熱を伴う敗血症の死亡率の2倍だそうです。今は無くなりましたが、昔のSIRSの基準でも体温は38℃以上もしくは36℃以下というのがありましたね。
⑨脳損傷患者でも発熱は抑えるようにしましょう
脳損傷患者においてが神経原性と考えられる高体温がしばしば見られます。外傷性脳損傷において発熱抑制は一部のガイドラインで推奨されている程度ではありますが、少なくとも臨床現場では極端な体温は避けるように管理するのが良いとされています。
⑩心停止後の患者の発熱も適切にコントロールするようにしましょう
心停止後の体温管理の話です。2021年のTTM 2 trialの結果もあり、最近は32℃より36℃での管理が好まれる傾向ではないでしょうか。大事なことは発熱(37.7℃以上etc)は予防する方が良く、ROSC後72時間は発熱を避け目標体温37.5℃以下に抑制する管理がよいとされています。ただつい最近のNew Engl J Medで「ROSC後24時間36℃で管理した後は、37℃以下の管理を12時間(体温管理合計36時間)と48時間(体温管理合計72時間)で死亡率や認知機能に大きな差はないよね」といった報告もされており(N Engl J Med 2023; 388 : 888 – 97. )、体温管理の継続期間は今後また変わるかもしれませんね。
一つ一つはそこまで目新しいものではないかもしれませんが、それぞれ重要な内容です。特に敗血症での体温管理や心停止蘇生後の体温管理などは、今後も動きがでるところなので注目ですね。
【参考文献】

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