経肺圧について考える ①総論編〜経肺圧の概念について〜

呼吸管理

人工呼吸管理における肺保護換気戦略の指標として、これまでの一回換気量やプラトー圧に加えて最近では「経肺圧」が非常に注目されています。研修医の先生方や看護師の方からもよく質問を受ける項目でもあります。今回は「経肺圧」に関して「①総論〜経肺圧の概念について」、「②実践〜測定方法や画面の見方など」と2回に分けて紹介したいと思います。

「経肺圧ってなんですか?」

経肺圧=気道内圧だけでなく胸腔内圧も加味した肺にかかる圧

通常我々が息を吸うときは、横隔膜や肋間筋を収縮させ胸腔を広げることで胸腔内にに陰圧の胸腔内圧が生じます。この陰圧の胸腔内圧が肺を引っ張って広げることで吸気は発生します。これは人工呼吸中の患者でももちろん同じで、人工呼吸中の患者が自分で息を吸おうとすると(自発呼吸を行うと)肺には”外から”胸腔内圧がかかります。しかし人工呼吸中の患者は人工呼吸器が送り出す圧により”内から”気道内圧もかかっています。すなわち肺には”外から”の胸腔内圧”内から”の気道内圧の2つの圧が作用しています。経肺圧とは、この気道内圧と胸腔内圧を合わせた肺を拡張させるのに要した圧のことを言います。プラトー圧など人工呼吸器で表示される数値はあくまで人工呼吸器により作られた”内から”の気道内圧の変化でしかありません。肺へのストレスを評価する際には、”外から”の胸腔内圧も考慮することが重要になります。

最近改定された「ARDSガイドライン2021」でのプラトー圧に関する項目で「一回換気量や経肺圧を適切に制限する状況下であれば、必ずしも高いプラトー圧が害とは言い切れない」といった記載もあり、経肺圧管理の有用性がどんどん高まっています。経肺圧をしっかり理解・管理することで、VALI(ventilator associated lung injury:人工呼吸器関連肺障害)の発生を回避する管理を心がけましょう。

経肺圧の測定方法

では経肺圧はどのように測定するのでしょうか?経肺圧は気道内圧と胸腔内圧を合わせたものです。気道内圧は人工呼吸器の表示から分かりますが、胸腔内圧は新たに測定する必要があります。胸腔内圧を直接測定するのは非常に侵襲的で困難なので、実際の臨床の現場では食道内圧を測定することで胸腔内圧の代用とします。同じ密閉された空間(胸郭)内にあるので”肺にかかる圧と同じ圧が食道にもかかっている”という理屈です。この具体的な測定方法は、次回の「経肺圧について考える ②実践編〜測定方法・画面の見方〜」で紹介しますので、参考にしてみてください。

経肺圧の指標

では経肺圧が測定できたとして、どのように考え、管理すればよいでしょうか?①自発呼吸がある吸気時の経肺圧、②自発呼吸がない吸気時の経肺圧、③呼気時の3つの場合について、考えてみましょう。

①自発呼吸がある場合の吸気時経肺圧

最初に紹介した状況です。肺には人工呼吸器よる気道内圧に加えて自身が作り出す胸腔内圧(=食道内圧)がかかるので、吸気時の経肺圧は気道内圧に胸腔内圧(=食道内圧)を加えた圧になります。人工呼吸器で吸気圧やPEEPを設定しますが、自発呼吸の際はさらに肺に圧がかかっていることがよくわかると思います。この吸気時(終末)経肺圧は肺の過膨張の指標です。

管理指標:吸気時終末経肺圧<25cmH2Oになるような管理を目指します。

②自発呼吸がない場合の吸気時経肺圧

では自発呼吸がない場合はどうでしょうか?自発呼吸の際に認められる自身で胸郭を広げて陰圧の胸腔内圧を作る、といった作業がなくなり、人工呼吸器から送られる圧で肺だけでなく胸郭も広げられます。すなわち人工呼吸器から送られた圧は肺を広げるだけでなく胸郭を広げることにも使われます。この場合の胸腔内圧は先ほどと反対で、肺にとっては外から押し返される圧ともとらえることができます。管理の指標は自発呼吸があろうとなかろうと同じです。こう見るといかに自発呼吸というのは肺に圧がかかっているかがよくわかります。

管理指標:吸気時終末経肺圧<25cmH2Oになるような管理を目指します。

③呼気時経肺圧

呼気時は全く話がかわります。自発の有無に関わらず呼気の際は広がった胸郭が元に戻り胸腔内圧が肺に作用し肺は縮もうとします。この際に肺が虚脱してしまわないように人工呼吸器ではPEEPをかけます。ですので呼気時の管理は”肺が虚脱しないように(呼気経肺圧がプラスになるように)PEEPを調整する”ことが重要になります。VALIの中でもいわゆるatelectrauma(無気肺損傷)の予防ですね。

管理指標:呼気時終末経肺圧>0cmH2Oになるような管理を目指します。

④Δ経肺圧(吸気時経肺圧ー呼気時経肺圧)

状況は上の①〜③の3つですが、経肺圧の管理にはもう一つあります。それが「Δ経肺圧(吸気時終末経肺圧ー呼気時終末経肺圧)」です。呼気→吸気にいたる経肺圧の変化量ですね。これも肺へのストレスの指標となります。肺にかかる圧の変化は少ない方がよい、なので経肺圧の変化量も小さいほうがよい、ということです。駆動圧:ΔP(driving presure)と似たような理屈ですね。

管理指標:Δ経肺圧<12cmH2Oになるような管理を目指します。

以上が経肺圧の総論になります。少し難しいですが、今後の急性期呼吸不全の呼吸管理において非常に重要な項目として注目されているものですので、ぜひ理解するようにしたいですね。

次回「経肺圧について考える ②実践編〜測定方法・画面の見方〜」では、実際に食道内圧を用いた経肺圧の測定方法や呼吸器のグラフィック画面の見方などを紹介します。ぜひこちらもご参照ください。

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